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不登校からの脱却ー再進学ー不登校はマイナス体験じゃない。立ち上がることで、つまずきの意味が変わる

専門家に聞く!統計データから見る!不登校脱却のヒント

みなさん、こんにちは。ただいま紹介いただきました平野直己です。引きこもり・不登校・中退からの子どもの回復についてお話します。できる限り事例に即して話そうと思います。いま抱えている問題の解決のヒントを見つけてもらえると幸いです。

長い人生、不登校でも心配ない

僕が引きこもりや不登校に悩む子どもたちと接するようになってから、もう30年くらいになります。前任校の北海道教育大学岩見沢校には附属学校がなかったものですから「ならば、附属フリースクールをつくりたい」と地域の方々の協力を得て立ち上げることになりました。市内に民家を借りて、ほぼ毎日午前10時から午後3時まで開室し、不登校の子どもたちを迎えました。

そこで何をして過ごすかというと、みんなでご飯を食べて、みんなで笑う。集まってきた若者たちがやりたいこと、興味を持っていることができるようサポートする。時には自転車に乗って遠出したり、キャンプをしたり、旅行に出かけたりします。僕が札幌校に移ってからも、その当時の子どもたちとの付き合いは続いています。

不登校を経験した子どもは将来どうなるか――。いま講演をお聞きの本人も親も不安に感じていると思いますが、だいじょうぶです。大多数はふつうの大人になっています。最初のころに出会った不登校や引きこもりを経験した若者たちは、現在は40歳前後の大人、おじさん、おばさんになりました。家庭を持つ人もいれば、仕事に打ち込んでいたりと、それぞれの人生を歯を食いしばって一生懸命生きています。適当に幸せで、適当に不幸な人生を、ふつうに懸命に暮らしているのです。それでも、ちょっと心配な人もいますが、それは病気や障害があるかどうかではなく、人とのかかわりの中にいない人たちです。

フリースクールの子どもから学んだこと

北海道教育大学札幌校平野直己准教授による講演の様子

とはいえ、不登校や引きこもりで出口を見いだせない本人が、いま相当につらい思いをしているのは確かです。そして、そんな子どもたちは決して特殊なケースではありません。札幌市だけをとってみても、不登校の児童・生徒は1600人以上います。どれくらいの数かというと、北海道の小さな村や町ひとつの子どもがそっくり不登校だと想像してみてください。それから高校中退は1年目が一番多くて、全国の統計では約60人につき1人の割合です。

不登校や中退、引きこもりは、本人にとっても、親にとっても、本当につらく、無力感に襲われたり、不安に苛まれたりする大変な経験です。しかし、果たしてマイナスだけの経験でしょうか。長い人生のなかで、不登校や引きこもりがどんな意味を持つことになるか考えてみたいと思います。そこで、僕がフリースクールでの子どもたちとの付き合いを通じて学んだことをお伝えします。3人の事例を紹介します。プライバシーに配慮して、いくつか別々のケースを組み合わせたところもあります。

教師への不信から不登校――A子の場合

中学校の教師に信頼を裏切られた経験から不登校になったA子。フリースクールで同じ中3の友だちと話すうちに高校進学を希望するようになりました。「面接試験の練習したいと言うので、別の中学の先生にフリースクールに来ていただいて面接練習をお願いすることができました。そこで彼女は、大きな不安をその先生に話しました。
不登校の理由を聞かれたらどうしよう?――いい加減な答えで自分をごまかしたくないが、面接する高校教員に理解されない心配もあると言うのです。A子は、その引っかかりを解消できずにいたのです。その中学の先生は次のように言ってくれました。「A子さん、君が高校を面接するつもりで、反応をうかがったらいいんじゃないかな。理解のない高校に行きたいとは思わないでしょう」とアドバイスしました。結局A子は、その先生の言葉に勇気付けられ、志望の高校の面接を受けて合格、3年間通うことができました。

場面緘黙で学校がつらい――B子の場合

場面緘黙[かんもく]とは、状況によっては言葉が出てこない、話せなくなってしまう心理状態です。そんな場面緘黙のB子にとって、中学校はとても居づらい場所でした。たとえば教室で、休み時間に親しい友人となら言葉を交わせるけれども、授業でなにかを発表したり、複数のクラスメートの前で意見や感想を述べたりする場面だと物が言えなくなってしまうのです。身体も緊張して思うように動かせなくなることがあります。こうしたB子の状態に周囲の理解がないことが、一層、学校を行きたくない場所にさせるのでした。

高校へ行ったら変われるかもしれない。B子は、そう思いました。幸い、話のできる何人かの友だちもいます。同じ高校へ通うことで現状が変えられるのでは、と希望を持ちました。しかし、ほとんど中学校に通っていなかったものですから、B子は内申書も成績もよくありません。結局、友だちとは別の高校へ進学することになり、不安は消えないままとなりました。

悩みながらも意を決し高校へ通ってみると、自分と同じような境遇の先輩に出会うことができました。自分は一人ではないと分かり、悩みや不安の理解者を見つけたことでB子は変わることができました。高校の運動部のマネージャーを務めて周囲をビックリさせました。ユニフォームの洗濯は、ずいぶんとお母さんに手伝ってもらったようですが(笑)。

ずっと周囲にからかわれて――C男の場合

北海道教育大学札幌校平野直己准教授による講演の様子

小柄でやせっぽちのC男は、おとなしい子です。心ない言葉を浴びせられたり、度の過ぎたからかいを受けたりしても、平気な顔でがまんしていました。残念なことにクラスの仲間たちは、C男が本当はどんなに傷つき、耐えているかに気づこうともしなかったのです。

ずっとからかわれてきたC男の中学生活も終わり、高校へ行けば周囲との新しい関係が作れると希望を抱いて進学しました。しかし、同じ高校に進んだイヤな奴らは相変わらずC男を意地悪くからかいます。どうにも我慢できず、つらさにたまりかねての高校中退でした。辞めてからもC男には抑鬱[よくうつ]状態が続くほどでした。

学校が怖くなって、1年間、離れていましたが、通信制高校へ進学することを考えるようになります。一緒に釣りに出かけたお父さんの言葉がひとつのきっかけでした。「学校へは行かなくてもいいよ。でも、ものごとを学ぶことはやめちゃだめだ。お前は、偉いよ。だって、今の世の中、学校へ行かないと決断するのは、とっても勇気のいることだから。その勇気があれば、きっと生きていけるよ。」

それを聞いてC男は無性に学校へ行きたくなりました。自分で選んで入った通信制高校へ進学してみると、気持ちが通じる仲間が見つかり「もう一人で悩まなくていい。高校へ行って本当によかった」と感じたそうです。

「つまずき」は成長の機会

それぞれに不登校あるいは中退といった「つまずき」を経験した3人の話を紹介しました。彼らが再び立ち上がる姿を知ると、つまずきというものは、苦しいことではあったとしても、決して悪いことばかりではないと思います。人生のなかで避けられない体験のひとつ、いや、むしろ現代社会が子どもに与えられなくなっている苦労のひとつとも考えてもよいのではないでしょうか。

いわゆる普通の子は学校の成績をもとに進学の流れに乗って行けばいいけれども、不登校の子は将来について悩み、考え、選択することの意味がずっと大きく、重いはずです。それは大人への成長の大切な機会と見ることもできるかもしれません。不登校自体は、問題行動でも病気でもありません。多かれ少なかれ誰もが人生で何度か経験する失敗や挫折のひとつでもあるのです。人生の中で経験するつまずきであるならば、立ち上がることに焦点を合わせてみるのです。つまずいたって、いい。もう一度立ち上がることで、つまずきという経験の意味が変わるのです。

はじめに話したフリースクール出身で大学生になった子から、就職が決まったと連絡がありました。聞くと、採用されたのは名前の知られた大きな企業です。就職活動の様子をたずねると、こんな話をしてくれました。「集団面接で一緒になった学生たちは、みんな海外旅行やらサークル活動やら、格好のいい、きらびやかな話題ばかりだったけれど、面接者がいちばん関心を示してくれたのは、不登校の経験の辛さとそこでいろんな人と出会うことになった体験談を話をした自分だった。」

高校進学が立ち直りのきっかけに

つまずいた子どもに親や先生、友だちは言うかもしれません。早く立ち上がりなさい、と。でも、そんなことは彼らにも分かっています。原因はどうあれ、いつまでもこうしてはいられないと、みんな内心は焦っているのです。でも、立ち上がるには、少しの勇気と何かのきっかけが必要です。先ほど紹介したC男のような例はありますが、親が単に言葉だけで諭したり、慰めたり、励ましたりしても、変化のきっかけになることは残念ながら少ないのです。でも、親や周囲の大人は、小さなチャンスを与え続けて待つ姿勢でいてほしい。

今日、体験談をお話しした3人の場合、高校進学が再び立ち上がるきっかけでした。不登校や中退の現状から脱け出す機会はこれに限りませんが、やはり進学(転編入・再入学)は大きなチャンスだと思います。その場合、学校選びは、きっと本人が自分でする人生で初めての大きな選択となります。資料を取り寄せたり、説明会で話を聞いたり、親子で相談したり、具体的に動いてみれば、それがもう立ち上がるためのひとつのチャンスになっているのだと思います。

この記事は、2013年9月16日開催の「不登校・中退者・転校希望者のための進路相談会」と2018年12月16日開催の「新しい学校選びフェア」 (ともに主催:高校生進学支援の会)にて行なわれた講演採録を再構成したものです。

平野直己氏 北海道教育大学札幌校准教授。学校・地域研究支援センター(学校教育研究支援部門)を兼任。主な研究内容は、児童期・思春期の心理援助、地域実践心理学(地域に関わる心理臨床)、キャンプなどの野外活動における体験に関する研究など。不登校をはじめ、さまざまな悩みを抱える子どもの教育支援活動を行っている。

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