コラム

不登校・引きこもりからの脱却  高校進学が、大きなきっかけに

通信制が私を変えた! 在校生・卒業生に聞く

この記事は、2016年6月18日、札幌市で開催された「不登校・中退者・転校希望者のための進路相談会」(主催 NPO法人高校生進学支援の会)での公開インタビューの採録です。


18歳のT君は、小学校の高学年から中学校にかけて不登校や引きこもりを経験。しかし、母親が中学生のための進路相談会に参加したことが、変化のきっかけとなりました。いろいろな学校のなかから自分に適した場所(通信制高校)を見つけたT君は卒業して、就職活動をするところまでたどり着きました。

不登校・引きこもりの日々に何を思い、どう過ごしていたか。親との関わりはどうだったか。そして、何を機会に自分が変わったか。経験者であるT君本人に語ってもらいました。聞き手は、さっぽろ若者サポートステーション総括コーディネーターの山名徹さんです。

■不登校、引きこもりのはじまり

山名 まず、不登校や引きこもりが、どんなふうに始まったのか聞かせてくれますか。

T君 小学校5、6年生で周囲から仲間はずれにされていると意識するようになり、「自分はそんな存在なのだ」と自分自身を追い込むようになりました。それが対人恐怖症につながり、ついで不登校に。中学校に入っても、いい仲間と思えるクラスメートはいたのですが、距離をとるような感じでした。

山名 そんな時期にどんなことを考えて、何をして過ごしていましたか。

T君 テレビを見たり、ゲームをやったりするくらい。外出しても、行くのは近所の公園か商店くらいでした。

司会 不登校になったとき、お父さん、お母さんにはどんなことを言われましたか。そして、それをどんなふうに受け取りましたか。

T君 率直に言うとうっとうしかったです。放っておいてほしかった。母親は優しく接してくれましたが、父親には無理やり車に乗せられて学校に連れていかれるようなこともあって……。

司会 いま考えると、そうした接し方はT君にとってプラスでしたか、マイナスでしたか。

T君 振り返ってみれば、プラスだったかなと思います。無理に学校に連れていかれても、反抗して帰ってきたんです。自分の意志を確かめられた点では、プラスだったのではないかと思います。


■相談会参加が脱却のきっかけ

山名 小学校から中学校へ進学するタイミングで、不登校状態の自分が変われる予感はありましたか。それとも不安がありましたか。

T君 環境が変わることを期待していましたが、心配もありました。中学校の同級生はふつうに接してくれたけれども、本当に信用していいのかどうか、わかりませんでした。

山名 では、中学校から高校へ進むときの心境はどうでしたか。

T君 声優に憧れていたので、該当するコースのある通信制高校を選びました。中学2年生の時に親が申し込んでくれた体験入学に参加しましたが、優しくしてくれた同校の生徒を見て「こういう人たちと関わりたい」「自分もこういう先輩になりたい」と思い、入学を決めました。

山名 不登校や引きこもりの子どもに親から高校進学の情報を伝えてよいものか、伝えるとしたらどんなやり方が適切か、サジ加減が難しいと思います。T君の場合は、母親が自分一人で今日のような相談会に参加し、進学の情報を知らせてくれました。そのことは、うれしかったですか。それとも、余計なお世話という感じでしたか。

T君 うれしい気持ちはありました。

山名 自分で殻を破る力がないとき、だれかの力を借りる必要があると思います。T君の場合、そうした親の働きかけが殻を破ることにつながったわけですね?

T君 そうですね。声優に関心があることを親が知っていてくれて、声優コースのある学校の情報を伝えてくれたことが、自分が変わるための大きなきっかけになりました。

弊会主催合同進学相談会の様子


■大きな意味のあった高校進学

山名 自分で選んだ高校に通ってみて、どんな印象を持ちましたか。

T君 イベントが多くて、人前に出る機会もたくさんありました。そんな経験を通じて、人間不信だった自分が、いつの間にか変わっていました。とても大きな意味のある高校生活でした。

山名 相談員として多くの若者の悩みに耳を傾けてきましたが、家族以外にしっかり話せる相手である、気の合う仲間ができることが、学校に通うことの大きな意味だとも感じています。T君の場合は、どうでしたか。

T君 そうですね。困ったとき、悩んだときに話を聞いてくれる人がひとりでもいるというのは、とても喜びに感じます。

山名 通った高校には、不登校や引きこもりといった、同じような境遇にいた人、似たような経験をした人が多かったですか。

T君 多かったです。不登校や引きこもりは自分だけじゃないんだと思えました。

司会 学校に通えなかった時と通っている時とをくらべて、体調や気分はどう違いましたか。

T君 不登校の時は、ただもう「行きたくない」「動きたくない」という感覚でした。高校に通うようになって、少しずつ、そんな感覚がなくなっていきました。

山名 こうして話しているT君を見ていると、不登校や引きこもりを体験したとは思えません。今は引きこもりでも数年後にはT君のように人前でちゃんと話ができるようになる――そんなゴールが見えないと、親はどう子どもに接したらよいか、どんな環境に置いたらよいか、途方に暮れてしまいます。不登校だった中学生後半の頃を思い出してほしいのですが、この時期の親からT君への働きかけはどうでしたか。

T君 ……。ごめんなさい。よく覚えていなくて……。

山名 「学校に行きなさい」「ああしなさい、こうしなさい」という働きかけは強くありましたか?

T君 それほどでもなかったと思います。

山名 親は言いたいことを抑えて、見守っていてくれたという感じでしたか。

T君 ええ、そうですね。

司会 自分を変えるきっかけとなった高校ですが、卒業してみてどうですか。まだ通いたいような気持もありますか。

T君 そうですね。というのも、職業をはじめ、進路のことを自分でよく考える力が十分に備わっていなくて、悩むことがたくさんあるので、もっと先生や友人等の話しも聞いてみたいと今でも思っています。

司会 そこでサポートステーションを利用したり……。

T君 はい。ちょくちょく通っています。


■好きなこと、関心のあることを大事に

山名 T君に2つのことを尋ねます。ひとつは、自分からなかなか一歩を踏み出せないでいる子どもに、親はどう関わったらよいか。子どもとしては、どう関わってほしいか。

T君 親には子どもの好きなこと、関心のあることを知っておいてほしい。好きなことをする、続けるというのは、元気の素になるから。ここから何かかが見えてくるかもしれません。

山名 もうひとつは、いま中学生で不登校や引きこもりの状態にある人にメッセージを。

T君 さっきの答えと同様ですが、好きなことや興味のあることを大事にして、自分は自分として否定せずに考えを大切にして欲しい。

山名 先日、過去に不登校を経験した20代の女性からこんな話を聞きました。「当時は親を無視するような態度だったけれど、親の話を聞いていなかったわけではない。親が感情的にならずに、あきらめずに自分に関わってくれたことが、とてもよかったと、今よくわかる。」腫れ物に触るようにするのではなく、また(親子だからこそしがちな)原因を探ろうと過去をほじくり返すのでもなく、今どうあるべきかに焦点を当てて、体調のよいときにでも親子で話をしてみたらどうでしょうか。親子だけでは息が詰まるというのであれば、相談機関を交えて、ということもできます。

司会 そろそろ終わりの時間です。最後にお二人からそれぞれ発言を。

山名 今日、この時間の前にT君と話をして、私自身が相談員として救われる思いがしました。「不登校だった日々が無駄ではなかった」とT君が言うのです。

T君 傷ついたこと、嫌な思いをさせられたこと、いろいろと身をもって体験しました。だから、他人にはしてはいけないことや、逆に、してあげたらよいことに気づけるようになりました。「あんな過去はいらない」という思いが、「あんな過去があったから、自分はこれからこうしたい」という決意に変わりました。

司会 T君、山名さん、ありがとうございました。

この記事は、2016年6月18日、札幌市で開催された「不登校・中退者・転校希望者のための進路相談会」(主催 NPO法人高校生進学支援の会)での公開インタビューの採録です。