コラム

若者の心理と不登校・引きこもり

専門家によるアドバイス 不登校脱却のポイント

この記事は、2016年9月19日に札幌市で開催された「第8回高校不登校・中退者・転校希望者のための進路相談会」(主催 高校生進学支援の会)での講演の一部を採録したものです。講演者の肩書などは当時のままとしています。

 

「落伍者かもしれない」という恐れ

日本の若者全般の心理や彼らが置かれている環境から、今日の不登校の背景を考えてみたいと思います。まずは下のグラフをご覧ください。

 

グラフ1は「自分自身に満足している」「どちらかといえば満足している」と回答した割合の合計です。欧米では80%くらいの若者が自分自身に満足しているのに比べて、日本の若者は45%にとどまっています。グラフ2は「自分には長所があると感じている」若者の割合を示したものですが、こちらも日本は先進国のなかでは低い方です。ふたつのグラフを見ると、日本の若者の自己評価の低さがわかると思います。

現在、不登校や引きこもりの状態にある人だけでなく、日本の若者全般に巣くっている感情は次のようなものではないでしょうか。

「自分は落伍者かもしれない」

「自分は周囲に嫌われているかもしれない」

「自分には能力がないのではないか」

ただし、本人にストレートに尋ねてみても、はっきりとそう認める人は少ないでしょう。というのも、上に挙げたような感情にとらわれていても、それを隠して生活しているからです。学校や友人の間では、なおさらです。

ここにある感情は何でしょう?

それは不安や心配を口に出すとバカにされるのではないかという恐れです。その評価がいつまでも自分について回るのではないかという恐れです。弱さや格好悪さは誰にでもあるものなのに、それを気づかれないようにふるまうことに日夜エネルギーを消耗しているのが、日本の若者、とりわけ中高生ではないでしょうか。


人間関係で消耗する中高生たち

いま「日夜」と言いましたが、これは誇張ではなく、文字通り「日夜」です。携帯通信端末の普及で友人知人と24時間つながることが、この不安や恐れを煽ることにもなっています。

ケータイ、スマホ以前の時代であれば、一日の授業が終わり、部活も済めば、さようならです。家に帰れば、学校での人間関係は明日の朝まで休止です。

ところがスマホを持つと、そうはいきません。四六時中つながるものですから、家に帰ったところで、ややこしい人間関係は休止になりません。スマホにメッセージが届けば、少なくともソツのない返事を、あまり相手を待たせずに送らなければ、誤解や思い違いのタネになります。気が気ではありません。

学校で授業を受けていても、家で親や兄弟と話していても、ネットでの交友関係の方が気になってしかたがなくなることも珍しくないようです。そんな交友グループに一人で二つ、三つと入っていたら、さぞ大変なことでしょう。たしかにネットは便利ですが、そこでの人間関係が不安・負担の源になっている例も少なくないはずです。

これまで述べてきたことを大まかにまとめると、日本の若者たちは「自己防衛的」な性格が強いと言えます。ここに挙げた「同調志向」「リスク管理」「狭い空間にとじこもる」「厄介なことに関わらない」――これらの傾向は、もちろん大人にも見られますが、若者全般に顕著に表れています。息苦しい人間関係を生きなければならないことが、不登校や引きこもりの下地になっていると考えてよいのではないでしょうか。


不安が潜む場所となった学校

学校という空間も、いまの中高生の親の時代と比べて、ずいぶんと変容しています。大きな流れを下の年表にまとめてみました。

端的に言えば、学校が安全な場所ではなくなっています。1980年代以降、いじめの増加で学校やクラスが生徒にとって不安な場所になりました。1990年代後半からは学級崩壊の例が多く報告され、学習する環境としてもぐらつきを見せています。教員だけで、あるいは学校だけでコントロールできない事態に立ち至るケースもあります。

よく家庭環境や親の教育のまずさが不登校や引きこもりの原因とみなされます。しかし、こうした学校の変容を考えると、親も家庭も副次的な要因で、不登校や引きこもりの主因は、やはり学校という空間、そこでの息苦しい人間関係ではないかと思われます。


不登校脱却の前提になること

不登校に陥った生徒の心理は、次のような悪循環から抜け出せなくなっているようです。

まず、過去にとらわれて孤立する。問題を自分ひとりで解決しようとする。他人に頼る必要があっても、そうした自分を受け入れられない。事態が好転せずに消耗する。またそれが、孤立を深めることにつながってしまう。周囲の大人も手助けの方法が見つけられず、焦ります。

では、どうしたらよいか。

つまずいた子どもが、人への信頼、社会への信頼を少しずつでも回復できるよう見守ることが大切だと思います。

具体的には、表面を取り繕わなくてもよい、安心できる友人関係を取り結ぶ。同じ境遇にある者同士だとスムーズにそれができそうです。また、役に立つ、立たないという価値観をいったんおいて、子どもが本当に喜べることをじっくりと体験させてやることも必要でしょう。親の目から見るとゴロゴロしているだけのようでも、子どもにとっては心身のエネルギーをたくわえる時間になっていることもあるものです。

少し時間はかかっても、孤立から抜け出し、意欲的に過ごせる機会をもつことが、自立の基盤を培うことにつながります。

この記事は、2016年9月19日に札幌市で開催された「第8回高校不登校・中退者・転校希望者のための進路相談会」(主催 高校生進学支援の会)での講演の一部を採録したものです。講演者の肩書などは当時のままとしています。

村澤和多里氏 プロフィール
札幌学院大学 心理学部臨床心理学科教授。日本生活指導学会理事。〈「ひきこもり」における透明な排除のプロセス〉等、不登校問題に関わる論文も多数。
著作『ひきこもる心のケア』(監修)世界思想社、『中井久夫との対話』(共著)河出書房新社