コラム

不登校・ひきこもりの心理的背景

専門家によるアドバイス 不登校脱却のポイント

この記事は、2015年1月13日に市立札幌大通高校で開催された「子ども・若者支援セミナー」(主催 さっぽろ子ども・若者支援地域協議会)での講話の一部を採録したものです。講演者の肩書などは当時のままとしています。

発達障害(疑い)の保護者対応に苦慮

■発達障害が疑われる保護者

ただいまご紹介いただきました、札幌市教育委員会のセラピスト、武田でございます。そもそも、なぜ教育委員会にセラピストがいるのか。はじめに、そこから説明しましょう。

札幌市で2008年に発覚したある事件がきっかけでした。精神疾患の母親が実の娘を小学生から19歳までの8年間も自宅に監禁していたのです。おそらく長い監禁が原因で、娘には知的障害が生じていました。

どうしてもっと早く周囲が気づけなかったのか。母親にも娘にも救いの手を差し伸べる機会はなかったのか。教育・福祉・精神保健の連携強化が叫ばれました。そこで札幌市では教育委員会にセラピストを配置し、学校支援の窓口を開設することになったのです。

窓口への相談件数は増えています。平成26年度は新規件数だけで約350件。電話対応も含む相談回数は1300回です。おもな相談内容は、不登校・虐待・自殺関連行動。発達障害を持つ子どもの保護者の相談も少なくありません。

一方、私が委員会に来てから受けてきた1600ケースのうち、半数くらいは保護者対応に困惑している学校からのものです。たとえば、どんな問題か。親が精神疾患で、朝、子どもを学校に送りだすことができない。10人きょうだいの上の子に下の子の面倒見させるために学校へやらない。学校に異常な不信感を抱き、家庭訪問を拒否する。これらのなかには、保護者の発達障害が疑われる事例もあります。

子どもにもまして親自身がメンタル面で難しい問題を抱えている場合が、しばしば見られるようになってきました。ここ最近の顕著な傾向として、まず指摘しておきたいと思います。

 

子どもの変調をキャッチして関係機関と連携を 

■不登校の背景に精神疾患も

不登校の原因としてよく挙げられるのは、本人の怠惰や生活習慣の乱れ、あるいは人間関係のトラブルなどです。しかし、表面はそう見えていても、なかには発達障害や精神疾患が潜んでいるケースがあります。

そこで思春期に発症しやすい精神疾患の代表例をいくつか紹介しましょう。学校生活の中で生徒の行動の異変に早く気づくと、初期の適切な対応に結びつくことにもなります。

◎対人恐怖症

思春期の中ごろに現れやすい障害です。自分の家や、まったくの他人の前ならだいじょうぶなのですが、見知った人のいるところでは強い不安や緊張が生じるため、近所や学校へ行けなくなる疾患です。関連する病気には、自分の視線が険しくて周囲に迷惑をかけていると思いこむ「自己視線恐怖」、自分の体臭がきつくて周囲に敬遠されていると思いこむ「自己臭恐怖」、自分の顔の醜さが周囲を不快にしていると信じ込む「醜形恐怖」などがあります。

◎強迫性障害

精神科外来患者の1割強がこの病気で、診断された人のうち3割は15歳くらいまでに発症しています。

ある18歳の女子の場合は、ばい菌に対する異常な恐怖が心を占め、確認行動の徹底のために、ふつうの日常生活が成り立たなくなりました。同居する家族は、それに振り回されます。彼女は、ばい菌がつくのではないかと恐れ、服の着替えができない。自宅のトイレが使えずオムツを着用します。ベッドの使用も避けて居間で座ったまま眠るものですから、脊椎湾曲症になりました。食事をつくる母親を監視し、少しでも意に沿わないことがあれば、最初からやり直しをさせます。従わないと自傷行為に及びます。弟は玄関で食事をしなくてはならなかったそうです。幸い、専門医による薬物治療が効を奏し、3か月ほどですっかり正常に戻りました。

 

■子どもにも鬱がある

以前は子どもに鬱はないと考えられていましたが、ある調査では中学2年生で12%、高校2年生で20%が抑鬱状態だといいます。

◎鬱病

子どもの鬱は、重苦しくふさいだ気分の他にも様々なかたちで現れます。たとえば、イライラ。それから、好きなゲームをして遊ばなくなるといった、興味・喜びの喪失。食欲の減退。頭痛や腹痛。こうした症状も、子どもの場合は軽いことが多く、かえって鬱が気づかれにくいのです。とくに小学生などは、自分で「鬱」と表現できなくて当たり前です。とらえどころのない苦しい気分が、不機嫌や反抗的態度となることも珍しくありません。怠けや無気力になることもよくあります。鬱は発達障害が背景となっている場合もありますが、多くのケースでは休養と薬物療法で快方に向かいます。

◎統合失調症

これも思春期に発症しやすい病気です。統合失調症では幻覚や妄想といった症状がよく知られていますが、これは特徴的な症状が顕著に見られる急性期という時期のもの。その前には不安や抑鬱が主な症状となりますし、治療(薬物療法が主流)によって症状がおさまっていく過程では、無気力や意欲の減退が見られます。

■虐待が発達障害につながる

新聞やテレビでは毎日のように児童虐待のニュースが伝えられます。養育者によって繰り返し虐待を受けた子どもたちは精神発達に大きな困難を背負うことが研究によって詳しくわかってきました。

◎反応性愛着障害

浜松医科大学の杉山登志郎教授の研究によると、虐待を受けた子どもたちのうち、調査対象の8割に同教授が「反応性愛着障害」と名づける症状が見られました。では反応性愛着障害とは、どのようなものでしょうか。

ごく簡単に述べると、5歳までに養育者との間に愛着関係を持てなかった子は、人格形成に問題を来たし、適切な人間関係をつくる能力に障害が生じるというのです。被虐待児の脳に萎縮の見られる場合もあるといいます。反応性愛着障害は、自閉症スペクトラム障害やADHD(注意欠陥・多動性障害)といった発達障害によく似た症状を呈します。たとえば、情動をコントロールできないため、ささいなことで大きなケンカ騒ぎをする。他人との関わりを過度に求め、わざと悪いことをして注意を引こうとしたり、極度に甘えたり、あるいは攻撃したりする。しばしば自傷行為もあり、自殺のリスクも高い。

じつは市教育委員会のセラピストとして私が受けた相談のうち、この反応性愛着障害が疑われるケースはかなり多いのです。

 

■医療や福祉との連携で支援を

あらためて申すまでもなく、発達障害や精神疾患を持つ生徒や保護者への対応は学校だけではできません。かといって、ただ手を拱いているわけにもいきません。誰かが対処してくれるはず――みんながそう思って痛ましい結果になったのが、冒頭にお話しした事件です。

担任教諭や養護教諭がしかるべき窓口に事情を伝え、関係機関に対応をバトンタッチしたり、医療や福祉と連携して引き続き問題解決にあたったり、方法はいろいろです。それぞれの立場から持てる力や情報、知恵を出し合い、子ども、そして保護者の抱える問題のひとつひとつに最善の解決策・支援策を見出していくことが大切です。

この記事は、2015年1月13日に市立札幌大通高校で開催された「子ども・若者支援セミナー」(主催 さっぽろ子ども・若者支援地域協議会)での講話の一部を採録したものです。講演者の肩書などは当時のままとしています。