通信制高校・高等専修学校ニュース
子どもが不登校になったら
原則①「ふつうの生活リズムを保つ」
子どもが不登校になったら、どうすればよいか。
以前に本サイトの記事「子どもが不登校になった時、親ができること――3つのアドバイス」で、不登校期間の過ごし方を提案しました。専門家の知見を踏まえた、シンプルな3つの原則です。
昨年度、不登校の小中学生が過去最多の24万人を数えたことを受けて、これら3つのアドバイスについて改めて詳しく述べてみます。
中学生と保護者を念頭に置いた記事ですが、高校生にも当てはまることが多々あると思います。
第1回は「ふつうの生活リズムを保つ」です。
第2回「コミュニケーションを保つ」、第3回「前向きな姿勢を保つ」と続きます。
不登校のきっかけは何か
まずは不登校の実態を見てみましょう。2019年度に不登校を経験した小学6年生713人と中学2年生1303人が回答した文部科学省「不登校児童生徒の実態調査」2000年度の結果です。
「最初に学校に行きづらいと感じ始めたきっかけ」を尋ねられて、中学生は次のように回答しています。
・身体の不調(学校へ行こうとすると腹痛など)約33%
・勉強が分からない(授業がつまらない、成績がよくない)約28%
・先生のこと(合わない、怖い、体罰)約28%
・友だちのこと(いじめ、いやがらせ)約26%
・いじめ、いやがらせ以外で友だちのこと 約26%
・生活リズムの乱れ 約26%
・きっかけがよくわからない 約23%
・ネット、SNSなどの影響 約17%
・学校へ行く理由が理解できなかった 約15%
(以上、複数回答。回答の割合の高い項目を挙げました。)
絡み合う不登校の要因
この調査では、学校へ行きづらくなった最初のきっかけとは別の理由として「勉強が分からない(約42%)」「生活リズムの乱れ(35%)」「友だちのこと(いじめ・いやがらせ以外)(33%)」が上位に入っています。
不登校の始まりとなった一つのきっかけが他のきっかけと結びついて、解きほぐすのが難しくなることが容易に想像できます。
きっかけは必ずしも原因ではありません。不登校が続くうちに何が本当の原因でこうなったのか、生徒本人にもよく分からなくなったりします。
不登校に至る例として、次のような過程が考えられます。
(1)起立性調節障害で体調がすぐれず、学校を休みがちになる。
(2)勉強が遅れて、登校して授業を受けてもよくわからない。
(3)だんだん学校がつまらなくなり、さらに休みがちになる。
(4)友だちと話が合わなくなって、学校へ行ってもつまらない。
(5)休んで一日中インターネットやゲームをすることが多くなる。
(6)毎日の生活リズムがすっかり乱れる。
(7)体調、気分ともにすぐれず、登校する意欲がなくなっていく。
(1)起立性調節障害でなくても、(2)学力低迷、あるいは(5)長時間のネットやゲームがきっかけで不登校傾向が始まり、(6)生活リズムの乱れから不登校が長期化する例も同じくらいよく聞きします。
また、上のデータで示したように、きっかけがよくわからず、生徒本人も親も対処に困るケースも少なくありません。
いじめや、先生との関係のように、不登校のきっかけが明確で、比較的解決に取り組みやすいものであっても、その間に不登校のサイクルに落ち込んでしまうこともよくあります。
まずは学校を休ませる
また同調査によると、不登校になった中学生の5割は、学校へ行きづらい、休みたいと感じ始めて1か月から半年程度で実際に学校を休み始めています。うち約32%は不登校が始まるまで、わずか1か月足らずです。
親にしても子にしても、原因をはっきりさせて解決策を考える間もないうちに不登校が始まってしまうケースがよくあるということです。
では、いったん不登校が始まったら、もう打つ手がないのか――不登校のサイクルから脱却するのは簡単ではありませんが、けっして不可能ではありません。いくつかある対処法のうち、今回のテーマ「ふつうの生活リズムを保つ」を試してみてください。
ただし、不登校は心身のなんらかのピンチの表れでもありますから、「学校へ行きたくない」という子どもの声を、まずは受け入れてください。カゼを引いたくらいに考えて数日くらい休ませるのがいい、という識者の意見もあります。
ふつうの生活リズムを保つ
不登校のサイクルからの脱却といっても、必ずしも中学校に完全に復帰することを目的にしなくてよいと思います。
1週間のうち2日は通える、とか、午後からなら毎日通える、あるいは定期試験だけは受けに行ける、といったように登校は変則的であってもよいのではないでしょうか。もちろん、学校にいじめなど、心身の危険がない状態であることが前提です。
かなり不登校が長びいて、もう中学校への復帰はまったく考えていない生徒にとっても、「ふつうの生活リズムを保つ」は、けっして無駄にならない取り組みです。中学校へは通わないことにしても、次のステップである卒業後の進路にきっと役立ちます。
いまは学校のことも進路のことも、まったく考えたくないなら、それもけっこうです。
ただ、自分の心と身体の健康をそこなわないためのエクササイズとして、「ふつうの生活リズムに戻る」ように、「ふつうの生活リズムを保つ」ように、乱れた生活リズムを整えていってはどうでしょうか。
少しずつでいいのです。うまくいかなければ、何度でもやってみればよいのです。
本人を交えて生活のルールを
学校に通っていれば、おのずと生活のリズムが保たれますが、不登校になると、大半の生徒は生活リズムが乱れます。
たとえば、ゲームやスマートフォンは、し放題、いじり放題で夜更かしが続き、朝起きられなくなる。こうした生活が続くと、学校へ戻りたい気持ちが失せてしまい、たとえ戻れたとしても長続きしなかったりします。
学校への復帰を目指さないにしても、中学卒業後の進路を考える必要があります。高校へ進学するなら、どんな学校へ行けるのかを調べなくてはなりませんが、生活リズムが乱れていると、行動を起こす気力がわいてきません。
そのために高校進学のタイミングを逃がしたり、ギリギリになってから慌てて不本意な進学をして高校でも不登校になったりする恐れがあります。
子どもの生活リズムが乱れているなら「起床・就寝・食事の時刻を決める」「掃除、食器洗い、おつかいなど、家庭での役割を持たせる」――こうして、ふつうの生活リズムを取り戻し、保つことが大切です。子ども本人を交えてルールを定めましょう。
スマホ、ゲームは時間帯を決めて
なかでも長時間のインターネットやゲームが生活リズムを乱す原因になりやすいことは、ご承知の通りです。同調査の「保護者から見た欠席時の子どもの状況」によると、「インターネットやゲームを一日中していた」ことが「よくあった」り、「ときどきあった」中学生が約56%でした。
パソコン・スマホ・ゲームは多くの生徒の興味関心の対象なので、進学の動機や将来の進路選択にうまく関連づけられるとよいのですが、あまりに長時間にわたる不健康な使い方は、やはり問題です。使ってよい時間帯を決めて、けじめある利用をしましょう。子ども本人だけでなく、家族みんなで心がけることが大切です。
学力補充を兼ねて塾へ通ったり家庭教師をつけたりするのも一つの方法です。「火曜は塾の日」「木曜は家庭教師の日」といったぐあいに、1週間のうちに1日でもいいので、定時に出かけたり、準備して待ったりするスケジュールがあると、生活リズムを整えるのに役立ちます。
生活ルール、家族みんなで取り組む
ルールを定めても、本人の意志だけでは実行は難しいものです。家族全員が足並みをそろえて、決められた時刻の起床・就寝・食事が守れるよう、子どもに行動を促してください。
とくに最初は守れる日もあれば、守れない日もあるでしょう。一進一退は当たり前です。粘り強く注意し続け、子どもがルールを守れた時には家族みんなの成果として、達成を子どもと一緒に喜んでください。
中学校での不登校の期間が長くなっても、通信制高校という選択肢がありますから、高校進学を悲観しなくても大丈夫です。
とは言え、通信制高校へ進んだからといって、問題が自動的に解決するわけではありません。新しい学校生活への適応に生徒がずいぶんと苦労するケースも少なくないと聞きます。そのために入学前から(通学コースの場合は)学校へ通う訓練期間を設けている学校もあるくらいです。
「生活リズムを保つ」は最重要
高校進学前に「ふつうの生活リズムを保つ」ことができていれば、高校生活への適応はスムーズでしょう。
なにより心身の調子が整い、気分が安定します。気分が安定すると、ものごとに取り組む気力が生まれます。新しい環境や習慣に対処する、やる気がわいてきます。
3つのアドバイスのうち、今回の「ふつうの生活リズムを保つ」は最重要です。
これができるようになれば、次回、次々回に解説するアドバイスも自然とできるようになるか、もしくは、ずっと楽に取り組めることになるでしょう。