通信制高校・高等専修学校ニュース
サッカーで存分に自分の可能性を追求
FC琉球高等学院
サッカーが大好きな中学生や高校生で、もっとうまくなりたい人に、ぜひとも知ってもらいたい学校があります。FC琉球高等学院(沖縄市)です。とくに「試合に出るチャンスがほしい」「いまの環境では実力を発揮できない」と思っている人には、耳寄りなニュースもあります。
校名からも分かるように同校は、沖縄県内のJリーグクラブであるFC琉球が運営するサポート校(提携先は通信制の鹿島朝日高等学校)。自宅学習コース・週3日通学コース・スポーツコースの3つがあり、いずれも高卒資格の取得を目指す生徒を支援します。
このうちスポーツコースはハイレベルの育成プログラムによって、プロサッカー選手を目指す人を鍛えることに重点を置いています。生徒はFC琉球U-18に所属しながら日々の練習と学業に励み、優秀な選手はFC琉球トップチームのトレーニングに参加することも可能です。力量十分と認められた選手はFC琉球へ入団し、Jリーガーとしてプレーできるという「プロへのルート」でもあります。
新設のサッカー部で才能をより広く集める
今年(2022年)4月で開校5年目の同校は、生徒数の規模はまだ小さいものの、「サッカーを愛する高校生に才能開花の場を提供したい」と大きな意気込みで、この春、新たな展開を見せます。
これまで同校のスポーツコースへの入学条件は、FC琉球の育成下部組織(ユースチーム)である「FC琉球U-18」のセレクションに合格することでした。
それが、この春の同校のサッカー部創設にともなって、ユースチームに所属していない生徒でも、サッカー部入部を条件にスポーツコースへ入学できるようになりました。同校によると、現在のところ、希望する生徒は全員が入部可能です。
県出身初のJリーガー、石川けん氏が監督に
良いニュースは、そればかりではありません。サッカー部の監督に、沖縄県出身の初のJリーガーとして1992年から2003年まで活躍した石川けん氏が就任します。石川監督はJFA公認S級コーチライセンス保持者で、現役引退後は指導者としてJリーグチームや大学・高校のサッカー部で選手育成に長く携わってきました。
この4月からFC琉球高等学院サッカー部を率いる石川監督に選手育成の抱負を聞くことができました。
――創部されるサッカー部に生徒は、どんな反応を示しましたか。
石川:部が正式にスタートする前に、入部の意向がある生徒と練習をする機会がありました。生徒は『きつい練習だったけれども、これがきっと上達につながる』と満足そうでした。こういう環境でサッカーをしたかったという、サッカー部に対する生徒の期待を強く感じました。
――これまでFC琉球高等学院では、ユースチーム所属の生徒たちがサッカーに集中して取り組んできましたが、サッカー部の取り組みは、それとはどう異なりますか。
石川:ひとつ挙げれば、練習量と、生徒の身体の発達のバランスを考えた指導をしたいと考えています。午前中に練習、お昼に高校の勉強、午後の練習は適宜に切り上げて、生徒が家に帰って休養・睡眠をしっかりとれるようなサイクルで取り組みたいです。この休養が、生徒の身体づくりに大切ですから。
通信制高校・サポート校では生徒のスケジュールは柔軟に設定できますが、だからといって長時間やみくもに練習させるのではなく、質と量の両面で適切な負荷をかけて選手を伸ばしていきたいです。
全国高校サッカー選手権への参加を目指して
――県大会上位や全国大会出場常連のサッカー強豪校が各地にあり、プロをめざす生徒たちが集まっています。FC琉球高等学院は、他の高校とはどのように一線を画していこうと考えていますか。
石川:最初に話しておくと、当学院のサッカー部は高体連への加盟を申請中です。加盟がかなえば、高校サッカーの頂上『国立競技場』を目指して沖縄県内の、そして全国の高校サッカー部と戦うことが可能になります。まずは、それに向けてメンバーの数と質の充実を図ることに注力します。
選手育成の面で言えば、より『状況判断』に力点を置いた指導をしたいと考えています。高校サッカーの指導は全般的にまだフィジカルに偏りがちなところがあるのではないでしょうか。実戦形式の練習をていねいにやって、選手が試合の状況を判断する力を鍛えたいと思います。これがあってこそ、身体能力も存分に生かせるはずです。
「チャレンジ精神」と「次の課題」で選手を伸ばす
――石川監督ご自身の選手生活を振り返って、また指導者としてのキャリアから、プロ選手を育て伸ばす場所や環境で重視するものは何ですか。
石川:指導者の質が大きいと思います。ワールドカップの日本代表監督を務めたイビチャ・オシムさんをはじめ、現役時代に内外のたくさんの監督に接しましたが、そうした経験を踏まえて自分が考えるのは、2つの点です。
ひとつめは、選手のチャレンジ精神をかき立てること。選手には負けず嫌いを押し通してほしいし、建設的な失敗をどんどんしてほしい。これがないと上達は見込めませんから。そんなチャレンジ精神を大事にした指導をしたいと思います。
もうひとつは、次の課題を与えること。自分はできる、自分はうまい、と自己満足していては、選手はそれ以上伸びません。まだ伸ばせる力はないか、克服しなければならない弱点はどこか、指導者が指摘することで、次に取り組むべき課題が選手に見えてきます。ひとつめに挙げたチャレンジ精神で課題に臨んで、どの選手もサッカーとサッカー人生を充実したものにしてほしいと思います。
いまの自分のサッカー環境を変えてみよう
「部員数が100名を超えるようなサッカー部では、常時試合に出場するのは上位選手30~40名くらい。あとの選手にはなかなかチャンスが巡ってこない」と石川監督は話します。
「状況判断や勝負勘など、試合に出てこそ身につく力があるので、出場のチャンスを手にできる選手とできない選手とでは、総合的な実力の差がどんどん開いてしまう。せっかくの能力や資質を生かせないでいる人も少なくないはずです」と高校生のサッカー選手の現状について説明してくれました。
いま自分のいる環境では思うようにサッカーの力を伸ばせない、と感じている人にとって、サッカー上達のために自分にもっと適した場所を選びたい人にとって、サッカー部を創設したFC琉球高等学院は、問題解決のカギになるのではないでしょうか。
サッカー以外の理由でも。県外出身は提携寮で安心
ここまではスポーツコースとサッカー部のことを中心に説明してきましたが、冒頭で触れたようにFC琉球高等学院には、サッカーに打ち込む人以外も自宅学習コースや週3日通学コースで学べます。ここから先は、同校全般について説明します。
まず、どんな背景の生徒がFC琉球高等学院で学んでいるのか、同校に入学者の内訳を教えてもらいました。サッカー以外にも、さまざまな理由で選ばれているようです。
在籍生徒5名のうち2名がサッカーに専念するために入学した他、サッカーを続けたいけれども学力不安で全日制高校に行くことが難しかった生徒、家庭の事情で沖縄に来ることになり、ケガの療養も兼ねて環境を変えるために入学した生徒、不登校を経験しており、集団生活が苦手なために全日制高校へ進学が難しかった生徒が同校で学んでいます。
現在、FC琉球高等学院に在籍する生徒のうち2名は県外出身者で、親元を離れて暮らす生徒もいます。そんなふうに大きく環境を変えて新生活を始めたい生徒は、同校の近くにある提携寮を利用することができます。寮母さんは食育インストラクター・アスリートフードマイスターですから、サッカー選手に必要な栄養を考えた食事の管理はもちろん、生活全般について幅広く相談でき、支援してもらえます。
課外活動でプロサッカーの試合運営に参加
FC琉球が運営する学校だけあって、他の学校ではなかなか体験できない特色ある教育活動もあります。たとえば、サッカー試合に関わる課外活動。FC琉球のホームゲームがある際には、ボランティアとして会場設営や物販ブースでの手伝い、イベントへの参加など、プロスポーツクラブの運営を間近で体験できます。この課外活動は、高校卒業に必要な単位のひとつになります。
また、同校はJリーグクラブが直接運営しているため、FC琉球アカデミー選手育成プログラムを活用したプレプロ教育や、企画・経営・運営の実務を学ぶマネジメント能力開発など、独自のプログラムに取り組んでいます。選手としてピッチに立つ以外にも、将来、サッカーをはじめとするプロスポーツに関わりたい人にとっては、魅力的な学習です。
卒業後の進路は、サッカーでも、サッカー以外でも
FC琉球高等学院の生徒たちからは「自分のやりたいことに打ち込める」「自分のペースで勉強を進められる」「先生に分からないところをすぐ聞けるところがいい」といった声が聞かれ、通信制高校・サポート校の利点を十分に理解し、生かしているようです。
過去4年間8名の卒業生たちの中にはプロサッカー選手もいますが、大学進学(沖縄県外の私立大学、県外の公立短大、米軍基地内の大学、海外大学)などサッカー以外の進路でも、それぞれに希望をかなえています。