通信制高校・高等専修学校ニュース
不登校生徒にも無理ではない
全日制・寮生活の充実した日々
つげの高等学校
不登校の生徒が全寮制の全日制高校に?
それは無理だと誰もが思うのではないでしょうか。
ところが、生徒たちは、この寮で、この高校で、力強く成長して巣立っていきます。
新入生のおよそ7割が不登校経験者という、私立つげの高等学校(愛知県新城市)です。
中学校にほとんど通学していなかったような男子や女子が全日制で学び、しかも寮生活を送る――高過ぎるハードルのようですが、実際はどうなのでしょうか。この学校で1年を過ごした生徒に話を聞きました。
周囲の豊かな自然が新鮮
つげの高校2年生の小澤蓮さんは県内の中学校出身です。その中学校で周囲の陰口や無視のために不登校となりました。
学校そのものは嫌いではなかったので、行けないことに鬱々としながら高校進学を考える時期を迎えました。進学後の人間関係の心配や、これまでの学習の遅れも気になりました。
父親の勧めで一緒に見学へ出かけたのが、つげの高校でした。
学校を取り巻く豊かな自然が新鮮で「この場所なら」と期待を抱くことができました。
「当初はいくらか不安はありました。でも入学してみたら学校や寮生活には思ったより早く慣れました。生活リズムが整って朝昼晩とご飯もおいしく食べていますし、なにより朝は自分から起きられるようになりました」と小澤さん。
中学時代に体験できなかった学校祭やハロウィーンといった行事に参加できたのもうれしかった、と話します。
ここで新しい自分になる
寮のルームメイトとの共同生活はもとより、時には学年をまたいだ授業での上級生との交流など、コミュニケーションの機会が豊富な同校で、たしかに自分は変わったと感じるそうです。
「それまではうつむきがちだった自分ですけれど、人と目を合わせて話せるようになってきました。それから引っ込み思案、消極的だったのが、いろいろな場面で自分から行動ができるようになってきました」
3~4人が相部屋となる寮生活と聞くと、問題なく学校へ通っている、いわゆる普通の生徒でも二の足を踏むかもしれません。
でも、始まってしまえば、そこに思いを共有できる仲間がいるので、寮生活はきっと充実したものになります。
目に見えて感じられる成長
つげの高校では月に1度くらいの割合で帰省の機会があります。
そのたびに学校生活のあれこれを話すと親が本当に満足そうに聞いてくれる、と小澤さんは笑顔で語ります。
三者面談などで接すると保護者からも「帰省の折に子どもの成長が目に見えて感じられる」という声をしばしば聞く、と話すのは同校の福井敬治教諭です。
「なかには公共交通機関で帰省する子もいます。家にこもりがちだった子でも、バスや電車の時間と乗り継ぎを自分で調べて、ひとりで帰れるようになります」と頼もしく変わった生徒の例を挙げてくれます。
環境も毎日の過ごし方も、思い切って大きく変えてみる――つげの高校は、これからの成長のための大事なリセットになっているようです。
「山村留学」の場としても
それは不登校経験者だけの場所ではない、と福井教諭は言います。
「3年間たっぷりと自然に親しんで学ぶ『山村留学』の場として選んでもらってもいいでしょう。それから学校の規模は小さいですが、ハンドボール、卓球、ダンス、和太鼓など部活動(参加は任意)もなかなか盛んです。生徒が新しい関心、新しい目標を見つけるきっかけが、ここにはたくさんあります」
同校は最寄りのコンビニまで徒歩1時間という山間に立地しますが、日帰りの見学と寮の宿泊体験、両方に参加した生徒の約8割が入学を決めているそうです。
安心と楽しさのある寮生活
小澤さんは「放課後の教室で友だちとおしゃべりしたり、寮で同室の仲間となにげなく過ごしたりする時間が好き」と言います。
中学時代を同じ思いで過ごした者が多く集まる場所なので、小さくならなくていい。そんな安心感があるのでしょう。
つげの高校と寮にやって来る新入生たちには「もっとリラックスして過ごしていいよ、と言ってあげたい」と小澤さんは話します。
学校と寮生活を楽しみ、この1年でひと回りも、ふた回りも大きくなったことを親も教員も実感しているに違いありません。
意欲や自信が育っていく日々
高校での勉強についてゆけるかも不安でしたが、英・国・数は習熟度別なので授業が苦にならず、教室にもなじめたという小澤さんです。
ギター演奏に興味があるし、学校にある施設でボルダリングをするのも楽しい。英検や漢検にも挑戦してみたい。学校行事の企画運営にも携わりたい。「なんでも積極的に取り組んでみたい」と小澤さんは高校生活2年目の意欲を語ります。
つげの高校では、日々、静かに自信や自主性が育っていくようです。